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第一章 出会い
〈subaru〉
あの朝、遠野昴は父親に初めて美大を受験したいと打ち明けた。
予想はしていたけど、一笑に付され、それから頭ごなしにその思いを否定された。
いつもの時間に家は出たものの、学校へ行く気になれず、しばらく自宅近くの河原でスケッチをして過ごした
その後、思い立って地下鉄に乗った。
昴には、むしゃくしゃしたことがあると、決まって訪れる場所があった。
渋谷の雑踏のなか、堂々と存在感を放っている岡本太郎の壁画『明日の神話』。
ここはいわば、昴の聖地。
将来、芸術家として生きていきたいという夢を再確認する場所だった。
生涯をかけて、こんな傑作をこの手で生み出したい。
作者が死んだあとも、何十年、何百年も観る人の心を揺さぶりつづける作品を。
それが昴の唯一の望みだった。
だが父親は一刀両断にくだらんと切り捨てた。
そんな、夢みたいなこと言ってないで、現実を見ろと。
「生涯をかけて叶える夢なんだから、夢みたいに決まってる」
そう言ったら、「小賢しいことを言うな」と怒鳴りつけられた。
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