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あの様子じゃ、やめとけって言っても聞く耳持たないだろう。
それに進学校の生徒が美大を目指しちゃいけないって法もないし。
どっちにしろ、自分が首を突っ込む話じゃない。
「小川、メシ喰いに行くか?」
珍しく、工藤が誘ってきた。
だが、貴臣はこれも珍しく、この近くに勤めている友人と約束していた。
良かった、先約があって。
この人、苦手だから。
「あ、すいません。約束があって」
「ちぇ、付き合い悪いな、相変わらず」
「すんません」
貴臣はこれ以上何か言われる前に、デイバックを手にとり「お先です」と声をかけ、さっと事務室を出た。
***
「お待たせ」
そう言いながら、ポニーテールの女性が、校舎入り口の前に立つ貴臣のほうに駆け寄ってきた。
「だいぶ待った?」
「いや、5分も待ってない」
「時間もないし、あそこにする?」
と、津野七海は道路の向こうを指し示す。
「ああ、いいよ」
七海とは学部2年生のとき、大学のカフェで同席したのがきっかけで友達になり、もう4年になる。
ほぼ唯一と言っていい、気の合う友人で、大学卒業後もたまにこうして顔を合わせていた。
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