95人が本棚に入れています
本棚に追加
/98ページ
今日の課題は静物デッサン。
テーブル上の牛骨と毛糸玉とガラス瓶を描くもので、貴臣が見回ってみると、昴は毛糸の質感を出すのに苦労していた。
「ちょっといい?」
貴臣は彼の椅子に座り、少し手直ししてやった。
「一本ずつ描こうとしないで、塊を把握してから、練り消しでハイライト入れてやるんだよ」
「……そっか」
「で、それができたら影をつける」
貴臣は立ち上がり、昴に木炭を返した。
「やってみて」
昴は貴臣の言葉を忠実に守って影をつけていった。
「うん、いいね。その調子」
昴は振り返った。
そして、褒められたからか、嬉しそうに笑みを浮かべて貴臣の顔を見たとき、小さく「あっ」と声を上げた。
「ん?」
彼は何か言いかけたが思い直したようで「なんでも……ないです」と言い、またイーゼルに向かっていった。
でも、その日から貴臣は、ふとしたとき、こっちを見ている昴の視線に気づくことが多くなった。
最初のコメントを投稿しよう!