第二章 例外

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 今日の課題は静物デッサン。  テーブル上の牛骨と毛糸玉とガラス瓶を描くもので、貴臣が見回ってみると、昴は毛糸の質感を出すのに苦労していた。 「ちょっといい?」  貴臣は彼の椅子に座り、少し手直ししてやった。 「一本ずつ描こうとしないで、塊を把握してから、練り消しでハイライト入れてやるんだよ」 「……そっか」 「で、それができたら影をつける」  貴臣は立ち上がり、昴に木炭を返した。 「やってみて」  昴は貴臣の言葉を忠実に守って影をつけていった。 「うん、いいね。その調子」  昴は振り返った。  そして、褒められたからか、嬉しそうに笑みを浮かべて貴臣の顔を見たとき、小さく「あっ」と声を上げた。 「ん?」  彼は何か言いかけたが思い直したようで「なんでも……ないです」と言い、またイーゼルに向かっていった。  でも、その日から貴臣は、ふとしたとき、こっちを見ている昴の視線に気づくことが多くなった。     
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