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そして、翌週の水曜日。
午後の授業を終え校舎を出ると、街路樹の陰からぬっと人が現れた。
「小川先生」
「おっ? 遠野か。まだいたのか」
昴のクラスは午前なので、貴臣の授業が終わるまで4~5時間待っていたということになる。
「ここでずっと待っていたわけじゃないです。あっちの校舎の図書室で勉強していたので……」
そこで一旦言葉を切った昴は、一度大きく息を吸い、それから口を開いた。
「あの先生……」
「ん?」
「だいぶ前のことだけど、もしかして渋谷の岡本太郎の壁画の前にいた?」
「どのぐらい前のこと?」
「うーん……2カ月ぐらいかな」
そうか。
昴も気づいていたのか。
こっちの存在に。
「ああ、あそこはよく行くから、俺かもな。立ち止まっている物好きも、あまり見かけないし」
貴臣は昴に気づいていたことは言わずに、そう答えた。
「やっぱ、そうですよね。あー、やっとすっきりした。俺、先生のこと、どっかで見たことある人だなって、初日からずっと思ってて。でも違ってたら恥ずかしいから、なかなか言いだせなかったんです」
貴臣は思わず笑みをこぼした。
「なんだ、そんなことなら早く聞いてくれればよかったのに。遠野は岡本太郎、好きなの?」
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