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「はい、俺、小さいころ、万博公園の近くに住んでたことがあって。で、〝太陽の塔〟をはじめて見たとき『うわ、かっけー』って衝撃を受けて、それからずっと推しです」
今度は昴が、教室では見せたことのないような顔で笑った。
目尻が下って親しみやすい顔になる。
頬にえくぼができるのも、今、はじめて知った。
「あ、引き止めちゃってすみませんでした。じゃ、先生。また明日」
それを聞くだけのために、待っていたのか。
貴臣はこのまま帰すのは、なんだか悪いような気がした。
「遠野」
後ろ姿の昴に声をかけた。
「腹減ってないか。なんかおごるよ」
昴はぱっとこっちを見て、目を見張った。
「え、まじ。やった。行きたいです」
実を言えば、待っていてくれたお詫び、というわけではなかった。
貴臣にはとても珍しいことだったが、この子とはもう少し話がしてみたい。
そう思ってのことだった。
「なにがいい?」
「うーんと、あ、あそこのラーメンがいい……です」
昴は5メートルほど先に見える看板を指差した。
***
「らっしゃい」
まだ4時すぎの中途半端な時間だったので、席は空いていた。
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