第一章 出会い

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 もちろん、昴だって、それがすぐに叶う夢じゃないことぐらいわかっている。  でも、はじめの一歩を踏み出さなければ、そこに到達する可能性だってゼロのままだし。    そんなことを考えながら壁画を見つめていると、自分と同じように壁画を見ている人の存在に気づいた。  たぶん20代半ば。  アッシュグレーに染めた髪を涼しげなショートカットにして、細めのフレームの眼鏡をかけ、シンプルな白シャツにダークブルーのパンツをはいた男性だった。    思わず、声をかけようかと思ったけれど寸前でやめた。  もしかしたら、壁画を観に来たわけじゃなく、単に待ち合わせしているだけかもしれないし。  彼より先に、昴はその場を離れた。  だが、日が経つにつれ、忘れるどころか、その日のことが心を占領するようになった。    後悔が雪だるま式に膨らんでゆく。  どうして「その絵、好きなんですか?」と一言、声をかけられなかったのか、と。  たった数分、すれ違っただけの人なのに忘れられなかった。  大勢の人々が行き交う喧騒のなかで、その人の周りだけ静けさに包まれていた。  その静謐な佇まいに惹かれたのだと思う。
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