第二章 例外

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 〈nanami〉  クーラーの効いた店内に入り、急速に汗が引いていくのを感じながら、七海は思っていた。 また、〝悩める子羊〟がひとり増えたのかな、と。  彼女はすぐに察した。  自分に向けられた、昴の鋭い目つきのなかに宿っていた、あからさまな嫉妬を。 「可哀想。虚しいだけなのに。(おみ)を好きになっても」   誰に言うでもなく、七海は小さく呟いた。    4年前、大学のカフェで、ひとりで本を読んでいた貴臣に一目惚れした。  昼時で混んでいるのをいいことに、相席を頼んで、しばらく話をした。  で、「気に入ったから友達になって」と言ったら少し驚いた顔をして、それから「友達なら」と言ってくれた。  あれからもう4年だ。  はじめのうちは、そのうち友人から自然に恋人に昇格するだろうと、気楽に考えていた。  でも、貴臣は、友人以上になる気はまったくないらしい。    そんなことを考えながら、特にあてもなく女性誌の棚を眺めていたら、派手な表紙の結婚情報誌が目についた。  ペラペラめくると、この世の幸せを一身に集めたような顔のカップルがこれでもかと誌面をにぎやかしている。 さ  今は仕事が面白くなってきたところだし、まだしばらく結婚する気はない。  でも、自分も来年でもう26歳。  結婚したくなったとき焦るのも嫌だし、性格的に出会ってすぐとかは無理だし。
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