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木炭の使い方にも慣れ、モノトーンのグラデーションの美しさが際立っていた。
まだ、かすかな兆しでしかない。
でも機が熟したら、一気に才能が開花するのではないか。
貴臣にはそれがひしひしと感じられた。
テクニックに関してだけ言えば、まだ及第点はつけられない。
けれど、人を惹きつける力があるという点では、他の生徒に引けを取らない、いや、勝っているかもしれない。
ここでやめてしまうのは惜しい。
あと1年鍛えれば、国立芸大合格も夢ではないだろう。
貴臣には珍しく、熱心に勧めたい気分になっていた。
「二学期になってもこのクラスは続くから、通ってくればいいよ」
「学校始まったら無理。来られないです」
「俺個人としては、ぜひ続けてほしいけどな」
「えっ?」
昴は驚いたように顔を上げ、一瞬、瞳をきらめかせたが、その光はすぐに消え失せた。
「そりゃ、俺だって続けたいけど……」
長いまつ毛が目の下に影を落としている。
あまりにも元気がないから気にはなったが、授業中なので、彼だけに構っているわけにもいかない。
貴臣は、彼の肩をポンと叩くと、その場を離れた。
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