95人が本棚に入れています
本棚に追加
/98ページ
昴は誰よりも頑張っていたし、成長も著しかった。
ここでやめるのは、本当に惜しい。
が、一介の、それもバイト講師が口出しできる話ではない。
それぞれの家庭の事情もあるだろうし。
最終日にまたメシでもおごってやろう。
せめて、昴の絵に対する自分の考えを率直に伝えてやりたいと思っていた。
講師が認めたと言えば、彼の親も続けることを許してくれるかもしれない。
だが、その最終日、昴は欠席した。
***
「あ、小川先生。聞きました?」
午前の授業を終え、事務室に戻ると加藤さんが小走りで近づいてきた。
「先生のクラスの、あのS高の子」
「遠野? 今日、休んでたけど、病気か何かですか?」
彼女は首を振った。
「朝、玄関のところで、お父さんに無理やり、家に連れ帰られたんです。絵なんか習いに行かせた覚えはないって」
「は?」
「遠野君、特進クラスの夏期講習を受けてるって、家で言っていたらしいんです。でも、こっちに来てることがばれてしまったらしくて、お父さん、ものすごい権幕でしたよ」
そうか。
昴が毎日早く来ていたのは、特進の始業時間に合わせていたからだったのか。
最初のコメントを投稿しよう!