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「親御さんは反対なんですね。彼が芸大を受けること」
「そうでしょうね。まあ、理解できないこともないですけど」
加藤さんはそう言って、肩をすくめた。
昴が続けられないのは、家庭の事情以前の問題だったわけか。
貴臣はすぐ昴にLINEを入れた。
が、いつまで経っても、返信どころか既読もつかない。
気にはなったがどうすることもできず、貴臣はもやもやを抱えたまま、午後の授業に向かった。
***
「先生……」
夕方、学校を出ると、前と同じ、街路樹の陰から昴が現れた。
まだまだ昼の熱気が残っていて耐えがたい暑さなのに、薄手とはいえ、パーカーを着て、フードまで被っている。
「遠野、どうした?」
昴はフードで顔を隠していた。
覗きこむと、痛々しいほど頬が腫れているのがわかった。
「おい……その顔」
「……家から出るなって言われたけど、抜け出してきて」
「父親か?」
昴はかすかに首を立てに動かした。
「いくら親でもやっていいことと悪いことがあるだろ」
「先生……」
貴臣には珍しく、感情をあらわにした。
「詳しい話が聞きたいな。そうだな、俺の部屋、来るか?」
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