第一章 出会い

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 もし、またあそこで会えたら。  今度こそ、勇気を出して声をかけよう。  でも、その後、何度も渋谷へ行ったが、二度目の偶然は起こらなかった。 ***  それから2カ月ほど経ち、学校は夏休みに入った。 「もう2年生なんだし、今年から、夏期講習に行ったほうがいいんじゃない?」  夏休みが始まった翌日、昼食を食べ終わると大手予備校の名前がでかでかと印刷されている水色の分厚い封筒を母親から手渡された。 「今からでも、申し込みの間に合う講座もあるみたいよ」 「うーん」  まったく気乗りはしなかったけど、一応パンフを取り出してみた。 「高2の夏休みが勝負の分かれ目!」 「まだ間に合う、目指せ超難関校!!!」  勇ましいキャッチコピーが並ぶチラシやパンフを順に眺めていたら、一部だけ、毛色の違う冊子が出てきた。  ミロのヴィーナスのモノクロ写真が表紙の、薄いパンフレット。 それは、美大受験専門の付属校の案内書だった。  へえ、塾にも絵を教えてくれるところがあるんだ。  あ、高校1,2年対象のクラスもある。  ページをめくるうちに、熱い塊のようなものが胸を占領し始めた。
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