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食器も服も最小限。
この部屋で過剰なものと言えば、画材とキャンバスぐらいか。
「上がれよ。ああ、スリッパはない。客が来るのははじめてだから」
そういえば、知り合いを呼んだことは一度もなかった。
昴は一直線に窓際のイーゼルに置いてある油絵に向かった。
「先生の作品観るの、初めてだ。すごくいいですね」
「お世辞はいらないぞ」
「違います。この青がいい。それにすごく先生らしいと思って。この部屋みたいで」
「空疎ってことか」
「そうじゃなくて、無駄が一切ないってこと」
昴が見ていたのは描きかけの水面の習作だった。
東京郊外の山にスケッチに行き、山頂の滝に触発されたもので、課題でも出品作でもなく、好きなときに好きなように描いている作品だった。
昴は「他のもいいですか?」と声をかけてから、壁に立てかけていた数枚の油絵に手をかけた。
「風景と静物しかない。先生、人物は描かないんですか?」
「人間より自然の美に惹かれる、昔から」
「そう、なんだ」
「そこらへんに座っとけよ」
貴臣がすすめると、昴はベッドを背もたれにして座った。
「で、どうしたんだ、それ」
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