第二章 例外

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 貴臣は、絞ったタオルを手渡しながら言った。  昴はタオルを顔に当てると「冷たくて気持ちいい」と少し笑った。  それから、いつもより低い声でつぶやくように言った。 「父親にぶたれて」 「よくあるのか、そういうことは」 「ううん、今日が初めてです」 「親に黙って、うちに通ってたって、本当なのか」  昴はこくりと頷いた。 「うちの父親、人の言うことにぜんぜん耳を貸さない人間で。おまえは東大の法学部に入って法曹関係の仕事につけ、の一点張りで」 「ああ、遠野はS高生だしな」  昴の父親は大阪に本社がある電機メーカーに長年勤めていて、昨年、東東京支店長になったそうだ。  年齢は聞かなかったが、昴の父親なのだからまだ若いはずで、支店長は大抜擢だろう。  それほどの社会的成功を収めた親が、息子に期待をかける気持ちはわからないでもない。   「でも、遠野は絵が描きたいんだな」 「はい。高校に入って、学校で進路のこと、よく考えろって言われるようになって。でも、どうしても画家を目指すことしか考えられなくて」  膝を抱えた格好で昴は話し続ける。 「そう父親に言ったら一笑に付されて……そんなもんで、どうやって食っていくんだって」
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