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昴は膝に顔を埋めた。
華奢な肩がわずかに震えている。
「画家には資格はいらないから、必ずしも大学に入らなくてもいいんだが」
「でも、法学部なんか入りたくない。それなのに必死で受験勉強なんて無理だから、浪人確定だし」と顔を上げずに弱々しく呟いた。
「今からそんな決めつけなくても。受験まで、まだ1年以上あるし」
昴は顔を上げると、ふーっと大きなため息をついた。
そして、やっぱりわかってくれないんだという表情を浮かべた。
「先生だって、自分がしたくないことを無理やり押しつけられたら、今の俺の気持ち、わかりますよ」
昴の表情は物語っていた。
この人も、そこらへんの、ただの大人と同類だったのか、と。
失望を露わにした昴の顔を見て、貴臣の心はひどくかき乱された。
そして……
こいつに軽蔑されたくないという強い感情が湧き上がってきた。
昴はもう一度軽くため息をつき、立ちあがった。
そして、すっかり生温くなったタオルを貴臣に手渡し、言った。
「先生、迷惑かけてすいませんでした。帰ります。ありがとう」
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