第二章 例外

23/27

95人が本棚に入れています
本棚に追加
/98ページ
 昴は膝に顔を埋めた。  華奢な肩がわずかに震えている。   「画家には資格はいらないから、必ずしも大学に入らなくてもいいんだが」 「でも、法学部なんか入りたくない。それなのに必死で受験勉強なんて無理だから、浪人確定だし」と顔を上げずに弱々しく呟いた。 「今からそんな決めつけなくても。受験まで、まだ1年以上あるし」  昴は顔を上げると、ふーっと大きなため息をついた。  そして、やっぱりわかってくれないんだという表情を浮かべた。 「先生だって、自分がしたくないことを無理やり押しつけられたら、今の俺の気持ち、わかりますよ」  昴の表情は物語っていた。  この人も、そこらへんの、ただの大人と同類だったのか、と。  失望を露わにした昴の顔を見て、貴臣の心はひどくかき乱された。  そして……  こいつに軽蔑されたくないという強い感情が湧き上がってきた。    昴はもう一度軽くため息をつき、立ちあがった。  そして、すっかり生温くなったタオルを貴臣に手渡し、言った。 「先生、迷惑かけてすいませんでした。帰ります。ありがとう」 
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

95人が本棚に入れています
本棚に追加