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「あとで母親は〝知恵熱〟みたいなもんだったのかなって言ってたけど。ものすごいショックを受けたんだと思う。『あれはいったい、なんなんだ』って。で、岡本太郎って名前がずっと頭に残ってて」
昴は興奮気味に続けた。
「そんで、中学生のとき、彼の本を片っ端から読み漁って、めっちゃ感動してこの人みたいな芸術家になりたいって本気で思ったんだ」
「なるほどな。だから昴の絵には、人に訴えかける何かがあるんだ」
「えっ?」
「芸術家としての資質が備わってるというか、作品に核があるんだよ。人に何かを伝えたいという。俺が昴に絵を描き続けてほしいのも、その才能を眠らせるのが惜しいと思ったからだよ」
昴は膝立ちのまま貴臣の前まできて、ペタッと正座の恰好で座った。
「本当に?」
大きく目を見張って貴臣を見つめる昴の声が少し震えている。
「ん? どうした?」
「臣先生、本当にそんなこと、思ってくれてるの?」
「俺は、そういうことで嘘はつかない。お世辞も言わない」
みるみるうちに、昴の眼に涙が溜まっていった。
「あれ? やだな」
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