第三章 急接近と突然の遮断

4/18

95人が本棚に入れています
本棚に追加
/98ページ
 そう言うと、彼は慌てて横に合ったティッシュを数枚、立て続けに引っ張りだし、両目を覆った。  でも涙は止まらないようで、肩を震わせて、洟をすんすん、すすっている。  その、あまりにもいじらしい姿に、貴臣は目眩すら覚えた。  ヤバい。  貴臣は自分のなかに生まれた初めての感情に戸惑った。  昴の純粋さが愛おしくて、同時に、抑えの効かない、狂おしい感情が芽生えたのを自覚した。  思わず、昴を抱きしめそうになった。  思っただけで実際に行動したわけじゃない。  でも、人との交わりを極力避けてきた貴臣としては、それだけで充分異常事態だった。  第一の問題として、昴も自分も男だ。  もちろん、同性に恋愛感情を持つ人がいることはわかっているし、偏見も否定的感情もない。  だが自分のこととなれば、別だ。  今まで、自分がヘテロセクシュアルであることを一度も疑ったことはない。   いや、アセクシュアルかもしれないと思ったことはある。  身体のうちから突き動かされるような欲望というものを、一度も感じたことがなかったから。  本当にはじめての経験だった。  さっき、昴に感じたような、切ない気持ちを覚えたのは。
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

95人が本棚に入れています
本棚に追加