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そう言うと、彼は慌てて横に合ったティッシュを数枚、立て続けに引っ張りだし、両目を覆った。
でも涙は止まらないようで、肩を震わせて、洟をすんすん、すすっている。
その、あまりにもいじらしい姿に、貴臣は目眩すら覚えた。
ヤバい。
貴臣は自分のなかに生まれた初めての感情に戸惑った。
昴の純粋さが愛おしくて、同時に、抑えの効かない、狂おしい感情が芽生えたのを自覚した。
思わず、昴を抱きしめそうになった。
思っただけで実際に行動したわけじゃない。
でも、人との交わりを極力避けてきた貴臣としては、それだけで充分異常事態だった。
第一の問題として、昴も自分も男だ。
もちろん、同性に恋愛感情を持つ人がいることはわかっているし、偏見も否定的感情もない。
だが自分のこととなれば、別だ。
今まで、自分がヘテロセクシュアルであることを一度も疑ったことはない。
いや、アセクシュアルかもしれないと思ったことはある。
身体のうちから突き動かされるような欲望というものを、一度も感じたことがなかったから。
本当にはじめての経験だった。
さっき、昴に感じたような、切ない気持ちを覚えたのは。
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