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そういうと、昴は描きかけの絵に向かっていった。
そして、ため息混じりに、大きな声で言った。
「あーあ。『太陽の塔』を見にいきたい。あそこに行けば、元気100万倍になりそうなのに」
太陽の塔か……
連れて行ってやりたいのはやまやまだけれど、さすがに大阪は遠い……。
貴臣は、あることを思いついた。
「大阪は無理だけど、次の休みに一緒に岡本太郎記念館に行こうか」
昴は貴臣を振り返った。
表情がみるみる輝いてゆく。
「えっ、先生、本当?」
「ああ、行ったことある?」
「ないない。わー、やった!」
昴の屈託のない笑顔を見て、貴臣は今までになく、心が温かくなるのを感じていた。
自分はただ、昴のこの笑顔が見たいだけ。
ただ、昴の悲しむ顔が見たくないだけだ。
貴臣はそう自分を納得させようとした。
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