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〈takaomi〉
「うわ、先生。ちっちゃい太陽の塔がある。見て。ほら、あそこ」
昴が興奮気味に2階のベランダを指差した。
そこには、太陽の塔のミニチュアが客を出迎えるように手すりにつかまって、こちらを見下ろしていた。
翌週の日曜日。
11月の2週目。
良く晴れていたが、日陰に入るとさすがに寒い季節になった。
街路樹のイチョウも黄色く色づきはじめている。
貴臣と昴は、先日の約束通り、南青山にある「岡本太郎記念館」を訪れていた。
ここはもともと岡本太郎のアトリエ件住居で、没後、太郎のパートナーの岡本敏子が中心となり、数年前、記念館としてオープンしたものだった。
二車線の通りから脇道に入ると、閑静な住宅地になり、右手にうっそうと緑が生い茂った庭が見えてくる。
そこが、記念館だった。
岡本太郎が好んだという、バショウやソテツなどの大木を植えた庭園だが、意外に周囲に溶け込んでいる。
それほど広い建物ではなかったが、いたるところに岡本太郎の作品が展示されていた。
いや、置かれていると言ったほうが近いかもしれないが。
庭の緑の茂みにも、彫刻が潜んでいたりするので、宝探しのような気分になる。
昴はなにかを発見するたびに、目を輝かせて貴臣に告げた。
「はやく、あっちも行こう」
小学生に戻ったみたいな昴を、貴臣はたまらなく可愛いと思ってしまう。
彼の笑顔を見るたびに、自分の頬が緩むのを感じた。
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