第三章 急接近と突然の遮断

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 一番驚いたのは、かつての応接間に佇む、岡本太郎氏のリアルな人形。 「頭上注意」と書かれている低い戸口を先に抜けた昴が、思わずわっと声を立てた。  そんな調子で隅から隅までじっくりと展示を見たので、さすがに疲れ、隣接のカフェで休憩することにした。   「見てるだけでエネルギーが湧いてきた。先生は?」  貴臣は作品よりもそれを見ている昴の笑顔が元気をくれたと思っていたが、それは口にしなかった。 「ああ、そうだな」    昴はおいしそうにアップルパイをほおばっている。  貴臣はそれを眺めながら、ハイボールのグラスを傾けた。     俺の天使は、ずいぶん食いしん坊だな。  なにげなくそんなことを考えてしまい、思い切りむせて、昴に「大丈夫?」と気遣われ……  そんな調子で、とにかく貴臣は、今日も自分の気持ちを持て余していた。 ***  昴と別れてから、なんとなくすぐに家に戻る気にならず、表参道あたりをぶらついていた。  ここの並木は毎年、12月になると、パリのシャンゼリゼを思わせるようなイルミネーションで彩られる。  ふと、隣で眼を輝かせる昴を想像していた。  そして、昴とともにいることを、あまりにも普通のこととして受け入れている自分に、驚きを感じていた。  
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