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〈takaomi〉
家に戻ってからも、何もする気が起きず、貴臣は窓辺に座って煙草を口にくわえた。
煙を吐き出しながら、思い浮かぶのは昴のことだけだ。
すぐに煙草を消し、貴臣はクロッキー帳を広げて、彼の姿を憑かれたように描きはじめた。
全身、背面、アップ。
笑顔、ふくれた顔、泣き顔。
自分がゲイなのだろうかという問題はとりあえず置くとして、昴に特別な感情を抱いていることは、もう否定できない事実だ。
こうして描くことで、昴が貴臣の内面にゆるぎない形で固定されていくのがわかる。
だが自覚してしまった以上、今までのように昴に接することはできない。
昴はまだ17歳の高校生なのだ。
そんな相手に恋愛感情を抱くのは犯罪に等しい。
いやもちろん、具体的に何かをしたいと思っているわけじゃない。
すくなくとも今は。
でも、何かのきっかけで自分の感情をぶつけてしまうかもしれない。
そんなドス黒い欲望で、無垢な昴を汚したくない。
ただでさえ、人との距離の取り方が下手な自分だ。
昴を傷つけてしまうに決まっている。
距離を置こう。
昴のために、そうしなければ。
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