第三章 急接近と突然の遮断

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「さ、もう始めるぞ。早く準備して」 「この後、何か用事があるの?」 「ああ、ちょっと約束があって」 「わかった。じゃあ、急がないと」  昴は釈然としない様子だったが、おとなしく貴臣の言うとおりにした。  絵を描きはじめると、昴は脇目もふらずに集中する。  その間、話すことは絵に関することだけだ。  その日もいくつかアドバイスしたが、その数も少なくなってきている。  着実に成長している。  だから、大丈夫だろう。  ここで、俺が手を引いても……  描き始めてから2時間経ち、窓に目を向けると夕闇が迫っていた。 「ここまでにしようか」  貴臣が声をかけると、昴ははっと我に返ったように、貴臣に顔を向けた。  目が充血している。  どれだけ集中して取り組んでいるんだ。  その彼の真剣さが愛おしい。  知らずに唇を噛んでいたのか、目と同様、こちらも目立つほど赤くなっている。  紅を引いたような赤い唇が、貴臣を惑わせる。  どうしても、触れたいと思ってしまう。  そう。  だからこそ、意を決して言わなければ。  
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