第三章 急接近と突然の遮断

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「ああ、とてもよく描けている」  貴臣は、昴の石膏デッサンを見つめながら、ゆっくりとした口調で言った。  その言葉に、昴がうれしそうに微笑む。 「そうだな……これだけ描ければ、レッスンは今日終了でよさそうだ」 「えっ?」  彼の唇から笑みが消えた。 「どういうこと?」 「これだけ描けるようになったら充分だ。もう、わざわざここに来なくても、自宅で繰り返し描けば、着実に力がつくよ」  昴は眉根を寄せている。  貴臣がなぜ急にこんなことを言い出したのか、いぶかしんでいる顔だ。 「でも、俺はまだ、先生にいろいろ教えてほしい。これから油絵もやりたいと思ってたし」  貴臣は昴から目をそらしたまま、首を振った。 「おい、俺はそこまでの面倒は見られないよ。今だって休日はほとんど使ってるんだよ」 「……どうして、急にそんなこと」  昴ははっと、顔を歪めた。 「もしかして何か言われた……の? その……彼女に」 「いや……」  言葉の濁す貴臣の目を、昴は覗き込んだ。  真意を探ろうとするかのように。  貴臣はあえて意識を閉ざした。  真意を悟られないように。  少しの間、ふたりとも何も言わずに見つめ合っていた。  先に動いたのは昴だった。  ふーっと息をつき、肩を落とし、言った。 「わかった……もう来ない」
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