95人が本棚に入れています
本棚に追加
/98ページ
〈subaru〉
貴臣の家からの帰り道、涙が止まらず、昴は道沿いの、誰もいない小さな公園のベンチでしばらく時を過ごした。
涙をぬぐうことも忘れ、声を立てずに泣き続けた。
もう6時を回っていた。
昼間は陽ざしがあって温かかったけれど、今はとても寒い。
でも、そんなこと、どうでもいい気分だった。
貴臣の一言は、昴を崖から突き落とした。
「今日でレッスンは終わりにしよう」
貴臣は淡々と言った。
なんの感情も交えずに。
問い詰める昴に向けられた貴臣の眼からは、何も読み取れなかった。
記念館で見せてくれた優しい眼差しとはほど遠い、人を拒絶する眼差しだった。
何を期待していたんだろう。
最近の彼があんまり優しかったから、つい誤解してしまった。
わかってたはずだったのに。
貴臣が、あの美しい人と付き合っているって。
昴はバックパックから包みを取り出した。
今日、行きがけに買った、貴臣への贈り物。
皺の寄った袋に入った絵具をそのまま、ごみ箱に投げすて、昴はその場から立ち去った。
最初のコメントを投稿しよう!