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第四章 ターニング・アラウンド
〈takaomi〉
昴にはあれから一度だけ会った。
スケッチブックを渡すために、彼の学校の最寄り駅の改札で待ち合わせた。
「わざわざすみませんでした」
昴は他人行儀にひとこと礼を言い、すぐに去っていった。
貴臣はしばらくその場で彼の後ろ姿を眺めていたが、思いを振りきって踵を返し、改札を通ってホームに向かった。
考えなしに彼に好意を示しておきながら、唐突に突き放した。
嫌われて当然だ。
すべて自分が蒔いた種なのに、無数の針で突き刺されたように心は痛む。
電車に乗ってから絵具が切れていたことを思い出し、ターミナル駅で途中下車して、駅ビルに寄った。
街はいたるところツリーやイルミネーションに彩られ、華やいだ空気に包まれている。
今の、沈んだ心には、まるで別世界の出来事に思えるが。
このビルのエントランスにも、3メーターほどの高さの大きなツリーが飾られている。
その前を通りかかると、数人の若い母親がその下で愉しそうに語らっていた。
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