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「七海……」
「だから素直に負けを認める。無駄な戦いに時間を費やすほど、こっちも暇じゃないし」
一瞬、七海は真顔になって、貴臣を見つめた。
「知らなかっただろうけど、わたしはちゃんと好きだったんだからね、臣のこと」
何か言おうとしたが言葉が見つからず、貴臣は黙って下を向くしかなかった。
ぱっとスイッチを切り替えたように、七海は明るい声を出した。
「ということで、今日は最後の晩餐だから豪勢に行きましょう。臣のおごりでいいわよね」
「ああ、もちろん」
彼女はバッグからスマホを取り出し、どこかに電話をかけた。
「予約、取れたわよ。あの前にテレビで見た銀座のお寿司屋さん」
「えっ、まじかよ。じゃあ、ATMに寄らなきゃ」
そこは、政界のVIP御用達の店で、貧乏学生の臣には痛すぎる出費だったが、七海はまったく遠慮せず、気持ちのいい食べっぷりで、工芸品のように美しく握られた寿司を次々に平らげていった。
「ごちそうさま。あー、さすがに美味しかった」
そう言って、店の前で別れを告げる七海に、貴臣は「家の前まで送るよ」と言った。
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