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その言葉に、七海は笑みを浮かべて言った。
「最後にひとつだけ教えてあげる」
「何を?」
「優しさの安売りは相手を傷つけることがあるってこと」
そう言うと、七海は背伸びをして、貴臣の唇に自分の唇を合わせた。
「お寿司ごちそうさま。美味しかった」
そして、何事もなかったように礼を言い、七海はさっと踵を返して去っていった。
その引き際の鮮やかさに脱帽した。
いっそ清々しい。
貴臣も彼女の気持ちには、うすうす気づいていた。
でも、何も言われないのをいいことに、知らないふりをしていた。
昴を好きになって初めて、自分が七海に対して、どれほど酷いことをしていたのか、身に染みてわかった。
それを思えば、今夜の寿司代がたとえ家賃一カ月分でも、安い。
こっちの罪悪感を少しでも軽くしようとしてくれた彼女の気遣いには、感謝しかなかった。
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