第四章 ターニング・アラウンド

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 〈subaru〉 「昴、待ちなさい!」  父親を突き飛ばし、行くあてもないのに家を飛び出した。  もう一秒も父親と同じ空気を吸いたくなかった。  こんなとき、頼れる友達もいないし、財布の中身は700円ちょっと。   でもとにかく、家から離れたかったから、地下鉄で新宿に出て、しばらくうろついた。  渋谷には行く気がしなかった。  嫌でも臣先生のことを考えてしまうから。  マックで、コーラとポテトで3時間粘って。  辺りが暗くなってきたころ、最悪なことに雨が降ってきた。  もちろん、傘なんて持ってないし。  買うには残金も心許ない。  でもまだ家には帰りたくない。  しゃーないから、ここで一晩過ごすか。  そう思って、居座れそうな場所を探したけど、どこも先客がいて無理だし、変なおっさんに声かけられそうになって、慌てて地下鉄のホームに降り、来ていた電車に飛び乗った。  本当は心細くてたまらなかった。  そして、心が叫んでいた。  会いたい、と。  その思いは、空気の詰まった緩衝材のビニールみたいに、沈めようとしてもすぐに浮き上がってくる。  会いたいよ、臣先生に。    でも……もう一度、あの眼で拒絶されたら耐えられるかどうか。  まじで倒れて死んじゃうかもしれない。  ……東西線に乗り換えるとしたら、次の駅だ。    電車がカーブを曲がり、窓の向こうに駅の明かりが見え始める。  
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