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急いで階段を駆け上り、部屋に飛び込むとポケットから缶を出し、昴に手渡した。
「少しはあったまるだろうから」
「ありがと……」
アチっと言いながら、昴はプルトップを開けようとするが、なかなかうまくいかない。
「ほら、貸して」と貴臣はすかさず開けて、渡してやる。
そんなふうに、かいがいしく世話を焼く貴臣がよほど意外だったらしく、昴はくすっと笑って言った。
「先生、母さんみたいだね」
昴の表情が少し和らぎ、貴臣はほっと息をついた。
大事そうに両手でスープの缶を抱えている昴は、まるで子供で、これまで気持ちを抑えつけていた分、よけいに愛おしさが募る。
もう降参だ。
これ以上、彼を突っぱねるなんて不可能だ。
「先生……」
「ん?」
「なんで帰れって言わないの? 前はもう来るなって言ったのに」
昴はまっすぐ、貴臣をみつめる。
「ほっとける訳ないだろう」
貴臣は、昴の、まだ濡れている髪に触れ、頭を撫でた。
「それに……もう、自分の気持ちに正直になることにしたんだ」
「えっ、それって、どういう意味?」
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