第四章 ターニング・アラウンド

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「成績のことは自分でもまずいって思ってたから、それだけならこっちが謝って済んだんだけど。でも、描きためてたデッサンを見つけられちゃって。『まだ、こんなことやってるのか、それが原因なんだな』って……描いた作品、何枚も破かれて」  作品を破かれた? 「それは……ひどいな」  貴臣は思わず声を漏らした。 「で、飛びだしてきた。財布だけ掴んで。そしたら雨降ってくるし。本当に先生に迷惑をかけるつもりはなかったんだ。でも金もないし、他に行くとこなくて……」    話を聞くうちに、貴臣も自分のことのように腹が立ってきた。  昴の父親の横暴に。    子供はけっして親の所有物ではない。  それなのに、頑なに息子の意思を認めようとしない父親の傲慢が許せなかった。  昴のことになると、自分はどうしてこうも熱くなってしまうんだろう。  父親に散々悩まされた自分の子供時代がオーバーラップするからかもしれない。  それにしたって、こんな、面倒なことに自分から首を突っ込むなんて、今までなら、天地がひっくりかえってもありえなかったのに。
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