第四章 ターニング・アラウンド

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「戦う前に無理だと決めつけるなよ」 「無理だって。昨日、絵を破られたときに決心したんだ。高校卒業したら家を出る。で、自力で美大に行く」 「不可能とは言わないけど、限りなく困難な道だよ、それは」 「でも仕方ない。あんな親の元に生まれてきちゃったから」  強い口調でそれだけ言うと、昴は唇を噛んだ。 「ちょっと待ってろよ」  貴臣は立ちあがって台所に行き、昴にはさっき買ってきたココアをカップに移してレンジで温めてやり、自分はウイスキーをついで、部屋に戻ってきた。 「熱いぞ」 「ありがと」  貴臣は昴の向かいに腰を下ろし、話し始めた。 「俺の父親は、昴のところとは逆で、まったくと言っていいほど息子に無関心だったんだ」  貴臣はいつもより真剣な口調で語りはじめた。     そんな貴臣を見つめながら、昴は神妙な面持ちで話の続きを待った。 「父にかまってもらった記憶はまったくない。あの人が休みで家にいる日は嫌いだった。なんか緊張してしまってね」 「そう……だったんだ」  まるで自分のことのように、昴は眉根を寄せた。  貴臣はふっと微笑みを返すと、そのまま話を続けた。 「父は私立の美大を出て、画家を目指していたんだ。でも公募に出品しても落選続きで。そのうち、母の妊娠が分かって、結婚することになって、生計を立てるために公立中学の美術教師に納まったらしい。本人にとっては不本意だったらしいよ、そのことが」
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