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「でさ、親が死んだって聞いたとき、俺『ざまあみろ』って思ったんだよ。悲しみなんて、少しも湧いてこなかった」
「先生……」
「それからしばらくして、渋谷に行ったときに、あの壁画の前を通ったら、自然と足が止まった。どうしてだかわからないが、自分の内面を見抜かれたような気がしたんだ」
貴臣は一旦、ウイスキーに口をつけ、また続けた。
「親の死も悼めない“人でなし”に、人を感動させる作品なんて生み出せるのかって……」
エネルギーと色彩の洪水のような、あの壁画を目にしたとき、貴臣の内にくすぶっていた感情が溢れ出してきた。
自分はちゃんと父親と向き合いたかった。
話してほしかった。彼の辛さを。
そして、ちゃんと文句も言いたかった。
肉親として父親を尊敬し、愛したかった。
それから……
すべてを水に流して、心から父親の死を悼みたかった。
そこまで話をしたとき、昴に目をやると、彼の眼に溜まっていた涙が零れ落ちた。
あとからあとから零れつづけている。
「なんで、昴が泣くんだ?」
昴は貴臣にむしゃぶりついてきた。
「せ、先生は……そんな……人でなしなんかじゃ……」
貴臣は昴を受け止め、彼の背に手を回すと力いっぱい抱きしめた。
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