第四章 ターニング・アラウンド

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「昴に、俺みたいな後悔はして欲しくないんだ。逃げないで、ちゃんとお父さんと対峙してほしい。ぜったい、道は開けるはずだから」 「……臣先生」  見上げる昴と視線が絡む。 「ん?」 「俺、先生が好きなんだ」  貴臣は、昴の頬を濡らしている涙を指で拭いながら、静かな声で答えた。 「知ってる」 「えっ?」 「スケッチブックに俺の絵を描いてくれただろう? それを見てわかった。だから思ったんだよ、もう昴とは離れなきゃって。俺みたいな人間を好きになったことで、昴を傷つける前に」    昴は貴臣の胸に顔を埋めて言った。 「ううん、傷ついたりしない。だって、先生に彼女がいるのは知ってるし。だから初めから振られるってわかってた。でも、どうしても気持ちが抑えられなくて……」  貴臣はあやすように昴の背中を軽くたたきながら言った。 「俺に付き合っている人はいない。誤解だよ。前に会ったのは友人だ」 「友だち……なの?」 「ああ。大学からの友人だ。彼女とはなんでない」  貴臣は昴の肩に手を置き、身体を離して立ち上がり、自分のクロッキー帳を持ってきた。 「でも、昴はちゃんと告白してくれたんだから、俺も言わなきゃな」  昴は渡されたクロッキー帳を開いた。  広い画面にさまざまな姿の人が描かれている。  昴ははっと顔を上げ、貴臣を見つめた。 「はじめてだよ。人を描きたいと思ったのは」 「臣……先生」
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