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思わずじっと見つめてしまいそうになり、不審に思われないように、あえて壁画に目を向けた。
そして、ふたたびそちらを見たとき、高校生の姿はすでに雑踏に消えていた。
その彼と、こんな思いがけない形で再会することになるとは。
女子生徒たちの眼が異様に輝いている。
その気持ち、わからなくはない。
アイドル並みの超美形が、突然目の前に現れたら、みんなそういう反応を示すだろう。
一瞬とはいえ、男の自分でさえ、目を奪われたのだから。
だが当の本人は、自分に向けられた視線には無関心で、所狭しと並んでいる大小さまざまな石膏像や立体模型などのほうが気になるらしい。
貴臣が受け持っている、このクラスは夏期集中講座「現役高校生のためのデッサン基礎」
生徒は2年生が中心で1年生もちらほら混じっている。
1ターム3週間の講座で、今日は2日目だった。
事務の加藤さんに座るようにと促され、彼は軽く頭を下げてから近くの椅子に腰かけた。
「小川先生。授業中にすみません。見学希望だそうです」
「いえ、まったく問題なしです」
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