第四章 ターニング・アラウンド

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「ダメだと言って抑えつけても、今の昴は言うことを聞かないでしょうし。学校の勉強にも結局、悪影響が出るんじゃないかしら。ほら、あなたも、あの成績表を見たでしょう?」  母親は貴臣に視線を向け、頭を下げた。 「先生、ご面倒おかけしますが、お願いできますでしょうか」 「ええ、もちろん、そのつもりでおりますので」 「やった……」昴はちいさくガッツポーズをした。 「おい、勝手に話を進めるな。まだわたしは認めてはいないぞ」  母親は父親に頭を下げて、頼んだ。 「わたしからもお願いします。やらせてあげて。わたし、思い出したんですよ。昴は絵を描いているときが一番楽しそうだったこと。でもS校に入ってからは勉強が忙しくて、絵も満足に描く時間がなくなってしまったなって」 「……」 「安定だけが幸せとは限らないでしょう。わたしは昴に生き生きと人生を送ってほしいと思ってます」  三対一になり、最終的に父親も折れた。  ただし、芸大受験の最低条件はコンクールに入賞すること。  受験校は国立のみ。私立は認めない。  学科の勉強もきっちりして、二学期で落とした成績を学期末でしっかり取り戻すこと。  それが父親から課された条件だった。
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