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「もう嬉しくて、思いっきり走り回りたいよ」
駅まで送るから、と昴も貴臣と一緒に外に出た。
川沿いの道を歩いていくと、まるでライトを仕込んだみたいに水面がきらきら光っている。
「臣先生、本当にありがとう」
「いや、俺よりお母さんの言葉が一番効いたんじゃないか」
「でも、きっかけを作ってくれたのは先生だから」
貴臣は立ち止まった。
昴も一緒に立ち止まり、不思議そうな顔で彼を見上げた。
貴臣は昴の頭に手をのせ、髪をくしゃっと撫でた。
「俺の可愛い昴のためだ。当然だろう」
「えっ?」
貴臣は微笑みを返しただけで、また歩き出した。
「もう先生、突然そういうこと言うの、反則だから」
昴は頬を赤くしてふくれている。
「そんなことより、コンクール受賞はけっこうハードルが高いし、その先の芸大受験も難関だぞ。浮かれてはいられないよ」
「わかってる。ねえ、コンクールって課題は自由なのかな」
「昨日調べてみたけど、まだ次回の要項は出ていなかった。ただ例年どおりなら主題は自由なはずだよ」
「じゃあ、何描くか、もう決まってる」
「何?」
「まだ内緒」
昴は悪戯っぽく、目をきらめかせた。
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