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貴臣自身は出品したことがなかったが、昨年も今年も、塾の生徒のなかにそのコンクールに出品したいという子がいて、いろいろと相談を受けていた。
昨晩、昴の寝顔を見ながらそのことを思い出し、説得材料に使えると思いつき、ようやく浅い眠りについたのだった。
「先生がいてくれたら、どっちも行ける気がする」
「そんな甘いもんじゃない」
「わかってるって、ちゃんと頑張るから」
「よし、じゃあ、明日から特訓開始だ」
「よろしくお願いします」
昴が立ち止まって、深々と頭を下げる。
顔を上げて、また笑いあって。
貴臣は、こんな解放感を味わうのは、もしかしたら生まれてはじめてかもしれないと思っていた。
そうして、昴に出会えたことがどれほど自分にとって大きなことであるか、改めてかみしめていた。
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