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エピローグ
年が明けた。
親から絵を習う許しを得た昴は、堂々と、前以上に貴臣の部屋にやってくるようになった。
とはいえ、ずっと甘い時を過ごしていた、というわけじゃない。
昴に勧めたコンクールの締め切りは6月。
時間はまったくないに等しい。
一から油絵に取り組むわけだから、基礎をしっかり身に着けることが先決なので、春休みまでに一通りのテクニックを身につけさせようと、貴臣も必死で教えた。
それに4月からは高校3年生になり、学校の勉強もますます大変になる。
春から、学科の塾にも通うらしい。
あれこれと、やることに追われて寝る間もないはずなのに、昴はいつも元気いっぱいだ。
慢性寝不足のわりには、あいかわらず肌にニキビひとつない。
たまに部屋に入ってくるなり「眠くて耐えられないから10分だけ」とか言って、ベッドに寝ころんだ瞬間に寝てしまうことがあった。
それがどんなに罪深いことであるか、わかっているのかどうか……
自制心には自信がある貴臣も、その寝顔があまりにも可愛くて、つい唇をかさねたくなり、そのまま襲ってしまおうかと思うこともあったけれど……
でも、欲望のままに振る舞うようなことはなく、ただ修行僧のようにひたすら煩悩と戦った。
そんな自分を客観視すると、苦笑いが飛びだす。
あの人嫌いの小川貴臣は、いったいどこに行ってしまったのか、と。
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