エピローグ 

2/3

95人が本棚に入れています
本棚に追加
/98ページ
*** 「コンクール、これを描いて出品したい」  春休みになってすぐ、昴は下絵を手にやってきた。  ドアを閉めたとたん、早く見てくれと言わんばかりに、クロッキー帳を開いて貴臣に差し出す。  そこに描かれていたのは、スポットライトのように光を受けて、渋谷の雑踏に佇む貴臣の姿だった。 「初めて会った日の先生。なかなか上手く描けなくて、何度も描き直した」 「うん、構図もいいし。いいんじゃないか」  昴はちょっと不満げに唇を尖らせた。 「感想はそれだけなんだ」  貴臣はクロッキー帳を閉じ、机に置いた。  それから、昴を抱きしめて、言った。 「嬉しいよ……俺のなかでもあの日は特別だし」  昴は満足そうに笑みを浮かべてから、少し首を捻った。 「えっ、それって先生も気づいてたってこと? 俺のこと」 返事の代わりに、貴臣は昴の顔を覗き込む。  貴臣の意図を察して、昴はねだるように眼をきらめかせ、両手を貴臣の背に回す。  こんな表情をされると、貴臣の強固な自制心もあっというまに限界値を超えてしまい、いつになく長く丁寧な口づけを交わす。  
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

95人が本棚に入れています
本棚に追加