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立ち入り禁止、駐車場禁止、恋愛禁止、おさわり禁止……
小さなものから大きなものまで、世界中に溢れる禁止事項。
窮屈が大嫌いな、開襟シャツのエライ人がこう言った。
「今日から全ての禁止事項を解禁だ!」
禁止事項が解禁されるという情報は、その日のうちに解禁され、禁止されるものはなくなった。
工場現場や線路、解体中の今にも倒れそうなデカいビルも、立ち入り禁止じゃない。入りたい人は入ればいい。
国の次期リーダーを決める選挙の真っ只中である今、"自由"を公約に掲げた開襟の彼は、国民の抑圧された気持ちを解放することで、票を得ようとしているのだ。
「これで、今まで俺に票を入れなかった奴も票を入れるだろうなあ」
「思いきったことをしたな」
開襟シャツの選挙事務所に、品のある声が響く。
「詰め襟!」
そこには、ワイングラスを片手に、真っ白いノーカラーシャツのボタンを一番上までしっかり留めた男がいた。
彼もまた、次期リーダー候補だ。
「僕と君はリーダーの座を争うライバルだ。でもその前に大切な幼なじみだ。そうだろ?」
開襟は、もちろんだと頷く。
「だから一つアドバイスをしようと思って」
「アドバイス?」
「そう、君はこのやり方が完璧だと思っているんだろうが、全然だよ。これでは結果は世論調査と全く一緒。僕の圧勝だ」
そう言われた自由な男は、ムッとして「そうか?お前の案は細かすぎる。窮屈だ。そんなんじゃ国民も息がし辛いだろ。そのうち、自由の素晴らしさに気づくさ」と言った。
はぁと、ため息をつく詰め襟。
「いいかい?開襟。禁止事項が解禁されたからって、なんの意味もなく立ち入り禁止の場所に入るやつなんてそうそういないんだよ」
「そうか?俺は壊れそうなビルに入れたら、ワクワクするけどなあ」
「君は禁止されていても入るだろ」
「まあ、入りたければ」
「そうなんだよ。結局のところ禁止しようがやるやつはやるし、解禁しようがやらないやつはやらないんだよ」
わかったような、わからないような顔をする開襟に、「僕はアドバイスはしたからな」と言い残し、詰め襟は帰っていった。
数日後、投票当日。
国の広場に並ぶ候補者達。彼らの目の前で開票作業が行われていく。
「集計終了しました!」
日もすっかり暮れた広場に選挙管理委員会の声が響く。
結果は、詰め襟の彼の圧勝。
得票数は世論調査と全く変わらなかった。
壇上であることも忘れて悔しがる解禁に、詰め襟は、「言っただろ?やる奴はやるし、やらない奴はやらない。入れない奴は入れないんだよ」と言った。
その顔には余裕の笑みが浮かんでいる。
「くそ……完璧だと思ったんだけどな…なんで、お前との違いはなんなんだ……」
開襟はがっくりと肩を落とす。
「そんなのわかりきっているじゃないか」
「え?」
「君は詰めが甘いんだよ」
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