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プロローグ
冬になると、夜空に宇宙ステーションが現れる。
真っ暗な空の一角に、煌々と白く輝く人工的な光。
H山山頂スキー場のオールナイト営業。
子どものころからそれを眺めて暮らしてきた。
不景気になってステーションが金土の夜しか現れなくなったころ、オレは、そこのロッジで働くことになった。オーナーが親父の友達だったからだ。
親父は、まだ高校一年だったオレを夜の雪山に送りこんだ。
山頂への最終ロープーウェイは23時。始発は5時。
下山することがかなわぬまま、夜通し滑るツワモノたち相手に、厨房でラーメンやカレーと格闘した。
ロッジの食堂には300人程度の座席があったけど、満席になるのは日中の営業だけで、夜中はパラパラとしか人はいなかった。
壁ぎわには大きな暖炉があって、一晩中チロチロと火をともしていた。
初めて徹夜で働いた朝、じんじんとしびれるような疲れを目の奥に感じながらも、スキーヤー達の陽気な会話や振る舞いに魅了され、暖炉のあたたかさに心をとかされ、オレは浮かれたようになっていた。
以来6年、冬が来るたびここにくる。
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