零匹 ダルバラ

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 隣国のアルドラ聖王国内でクーデターが起きかけたという。すぐに鎮圧されたと聞く。ただ、面白いのは何年も持ち主がいないとなっていた聖剣が人々の前に現れたというのだ。そういった、聖具……もとい、強力な武器というのは世が乱れたときに現れるものなのだろうか。  なんにせよ、アルドラ聖王国の象徴の一つである聖剣は復活したらしい。  しかし、復活したのなら聖剣の儀を執り行うのは国の習わし。それが発表されない。そこに今回の謎がある。 「暇だし、そっちに足を伸ばすのもありか」  そう低い声がそっと漏れ、虚空へと消えていった。  そんなときだった。  馬車が急に止まった。  その衝撃は乗客達を襲い、一人を除いて皆が体制を崩していた。先ほどの親子もつんのめるようにして床へと身を投げ出されそうになっていた。そこを野太い腕が飛び出てそっと支えていた。 「大丈夫かい?」 「あ、ありがとうございます」  男はニッと笑うが、笑いかけられた親子は思わず固まる。  それはそうだろう。  男の人相がいけない。  太い眉。四角い顔、分厚い唇に短く刈り込んでいる黒髪。厳つさと雑なパーツ構成な上にそれをさらに凶悪に仕上げる巨漢。この馬車が少し傾いているのは彼の体重のせいだろう。座っているのに、まるでそびえる山のような印象を受けてしまうほどに体が大きかった。  それが彼、ダルバラ・アーケイオンだった。 「しかし、何か起きたみたいだな」  ダルバラは外の様子……空気が変わったことを感じ取った。  回りの客達は止まったことに対しての困惑と、体制を整え直すのに精一杯だった。  ただ一人、揺れる馬車の中で揺るぐことのない巨漢は窮屈そうに体を動かし、外の様子を探った。 「襲撃……か」  やれやれと彼はため息を漏らすと同時に、その獰猛な顔に笑みを浮かべた。
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