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明け方の空気は澄んでいた。
気持ちいい……。
美樹本雅はジョギングの後、幼い頃に父から教えられた空手の型を公園で行い、大きく深呼吸をする。それで、自然の気が体に漲るように感じた。
今日は非番だが、しっかりと早起きした。
学生時代は休みの日には昼過ぎまで寝ていることもあった。社会人になってからも、それはしばらく続いていた。
これではいけない、と思ったのは半年前、念願の刑事になったからだ。
常に体調を整え、万全の状態で事件に臨む――そう誓ったのだ。
警察には空手部の先輩の勧めで就職した。君は優しいし正義感が強いから、と言われたが、自覚はなかった。
むしろ男子学生達からは『悪魔の美樹本』とさえ呼ばれたこともある。思ったことをすぐに口にするからだ。しかも、怒ると乱暴な口調になる。
飲み会で酒の弱い学生に無理に呑ませようとする先輩に「時代遅れのハラスメント野郎っ!」と怒鳴りつけてくってかかったのは、大学2年の頃だったか?
空手の大会で男子の試合を観戦中、組み付いて目立たないように反則ばかりする相手を見て「殺すぞ変態っ!」と叫び、審判から注意を受けたのもそのくらいだ。
大学3年の頃「美樹本は喋らなければけっこう可愛いのに」と密かに好きだった先輩に言われ気をつけたこともあったが、一ヶ月もたなかった。
警察官になってからも、上司から「言葉遣いに気をつけろ」と何度も言われた。
所属する神奈川県警浜波警察署にとある事件で捜査本部が設置された時、喫煙所以外で平気で煙草を吸っている県警捜査一課の刑事がいた。遠慮がちにやめてくれるよう言っても聞かないので「誰かが肺がんになったらどう責任をとるのか言ってみろっ!」と怒鳴ったこともある。
正義感はともかく、優しいとは自分でもとても思えない……。
そんな雅が刑事になれた時は、まわりのみんなは驚いたものだ。推薦してくれた浜波警察署副署長には感謝しかないし、いずれ手柄を立て恩返しをしたいと思っていた。
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