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しばらくすると、がさごそと音がして森の闇が少し揺れた。そして、縄を潜って小さな体が飛び出してくる。
妹だ。顔を上げると、何か良いことでもあったのか目がキラキラしていた。
「ダメじゃないか、こっから先に行っちゃ!」
彼が強く言ったが、妹はへへっと笑うだけで悪びれたところがない。
「まったく……」彼は怒るのをやめた。それより、早くここから離れたい。「急いで帰ろう。怒られるぞ」
促して歩き出そうとするものの、いつもなら手をつなごうとする妹が、動かない。
「どうしたんだよ? 行くぞ」
更に促すと、妹は後ろにまわしていた手を前に差し出してきた。
「こんなのがいたんだよ」
嬉しそうに言う妹。その手に、何か白い塊があった。彼女の掌より大きいのではみ出している。もぞもぞと動いていた。
「な、なんだそれ? 気持ち悪い」
「ええ? かわいいじゃん。ふにふにして柔らかいんだよ」
触ってみれば、とでもいうように目の前に持ってきたが、彼は顔を顰めて体を引く。
妹が手の上に乗せているのは、大人の拳くらいで、白くてブヨブヨした物だった。カブトムシの幼虫を膨らませたような感じだ。
「捨てろよ、そんなの」
「やだ。育てる。横浜のおうちにも持って行く。しろちゃん、って呼ぼうかな?」
やれやれ、と彼は首を振った。妹は最近、妙なことをする。ダンゴムシをたくさん箱に入れてかわいがったり、蝉の抜け殻を集めてみたり……。
母に怒られて捨てはしていたが、それでも何度も同じようなことをする。
保育園の先生の話では、小さな子供がよくやることらしいが、彼にはそんな覚えはなかった。
まあいいや……。
溜息をつき、彼は歩き出した。どうせ、母に怒られて捨てることになるだろう。
妹は、その何かわからない白い生き物を眺めながらついてきた。
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