序章

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 田舎の家は大きかった。敷地も広い。2人は玄関を通らずに庭の方から室内に入ろうとする。  すると、そこには祖父がいて、庭木に水をあげていた。  「おお、帰ったか。もうすぐ夕飯だぞ」  優しく声をかけてきた。しかし、妹が手にしている白い何かを見て怪訝な顔になる。  「それは?」  「しろちゃん。何の虫なのか、これから調べる」  妹が快活に応えた。  「そんな大きな白い虫、見たことないな。どこにいたんだい?」  「森」  「なに?」と表情が変わる祖父。  「いや、森の近くで拾ったんだよ」  彼が慌てて付け足した。森に入ったなどと言ったら大変なことになる。  祖父はしばらくその白い何かを見つめていたが、突然ハッとなり、そして顔が青ざめた。  「だ、だめだっ! それは、すぐに元に戻さないと。貸しなさい」  いつもの祖父とはうって変わり、険しい形相で妹に詰め寄った。  「やだっ!」と走って祖父から離れる妹。「連れて帰るもん」  「それは、人が持っていてはいけない物なんだ。さあ、よこしなさい。すぐに戻してくるから」  「だめっ! これはだめっ!」  妹の叫ぶような声が響いた。それを聞いて、何事か? と両親も飛び出してくる。  「どうしたんですか、お父さん?」  母が祖父に訊いた。ただならぬ雰囲気を感じとり、表情がこわばっている。
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