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 「でも、昔の田舎はそんなものじゃないんですか? 山の合間に村があって、その土地々々(とちとち)でそれぞれの暮らしを営んでいた……」  「そういう所も多いだろう。だが、その棲默村の起源は平安時代にさかのぼるらしいが、最初の村民は人があまり訪れない場所を選んで住み着いた。いや、そもそも山々を渡り歩いた末にそこにたどり着いたようにも思える。村の名前も、いつからその漢字になったのかわからんが、こういう意味がこめられていると思わないか? 黙って棲息するための村……」  確かに、好んでつけたいような名前ではないだろう。雅は頷かないものの否定もしなかった。  「しかも、すだまという言葉には魑魅という意味もある。忌まわしいと思わないか?」  「思わないか、っていわれても……」困惑する雅。「その、山々を渡り歩いた末に住み着いた、っていうのは事実なんですか?」  「ああ。私は近隣の地域も含めて古文書や言い伝えなども調べてみたんだ」  「なぜ渡り歩いていたんでしょう?」  「そこだよ」と織田は大きく頷く。「棲默村の先祖達は、理由があって都はもちろんある程度開けた土地には住めなかった。自分達だけで隠れるようにして暮らすことができる場所を求めて彷徨い、ようやく見つけた。それがあの場所なんだろう」  「理由って?」  「その人達だけに伝わる、独自の宗教を持っていた。それが他からは異端とみられていたんだよ。君は修験道というのを知っているか?」  「修験道? ええと、山伏とかが修行しているのですよね?」  「おお、知っているのか」  「私の田舎のお祭りに、よく来ていましたよ、山伏の人が。焚き火に向かって何か祈りを捧げていたりして、子供の頃は面白いような、なんか格好いいような感じがして見ていました。そのころチョロッと話を聞いたことはあります。あっ!」  雅はふと思いついてハッとなる。織田が怪訝な顔をした。
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