序章

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 「その白いのは、おそらく……」  そう言う祖父の声を、妹が激しく遮る。  「だめ! 絶対に連れて行くから。絶対に戻さないからっ!」  なぜか妹は、いつもより強い声、強い目つき、そして激しい口調で言った。  どうしたんだろう?  ついさっきまでいつもの妹だった。それが、祖父に白い何かをよこすように言われたとたん、豹変した。まるで別人のようだ。歳さえいくつも上になったように感じられる。  母も父も驚いた顔で妹を見つめた。  「それは、あの森から出てきてはいけない物なんだ。出しちゃいけないんだ。さあ、かしなさいっ!」  最後は祖父も激しい口調になっていた。  しかし妹は怯まない。  「絶対だめっ!」  急に駆け出す妹。いつも素早いが、今日は一段と勢いがあった。彼や祖父、両親が抑えようと動く前に、すごい速さで外へ出て行く。  「いかん、もうあれの影響が……」祖父の声が何かに脅えるかのように震えている。「すぐに連れ戻すんだ」  父を促し妹の後を追う祖父。振り返り、母に向かって「村の重鎮達をすぐ集めてくれ。儀式が必要だ」と叫ぶように言った。  彼は突然世界が変わったような気がして立ちすくむ。  なに? どうして? あれは何なの?  そうやって佇んでいるうちに、あちこちから村人の慌てる声、足音が聞こえ始めた。  何か大変なことが起こっているのだけはわかった。
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