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 1人だけと言われ、雅はあの山伏を思い出した。彼は棲默村出身の修験者なのではないか? 織田も同様に考えているらしく、軽く雅に目配せしてきた。その山伏と短いながらも会話したことは、後で報告すべきだろう。  「20年前も、その『厭魅絡繰』が禁足の森から出てしまって、それを封印することができずに今に至っているということなんですね? そして、まだこれからも続く、と」   織田の質問に柄沢は険しい顔で頷く。幾重にも刻まれた顔の皺が辛そうにうねる。  「本当は、狙う相手を滅ぼした後は消滅していくものなのだ。だから、その当時竹見氏を滅ぼして消え去れば問題はなかった。しかし、村人達は勢力の衰えた竹見氏を狙うことをやめさせ、封印した。そのままにしておけば自然消滅すると思ったのかも知れない。だが、あの強烈な術によって生まれた化け物はそう簡単に消えはしなかった。それどころか、年月を経るうちに狙う相手はぼやけ、今や暴走し始めている可能性もある。竹見氏の末裔だけではなく、目についた者は何でも殺戮するようになってしまっているのかも知れない」  背筋が凍るような話だ。雅は焦燥感を覚えた。なんとか封印し直さなければ。もし消し去ることができるなら、そうしなければ。犠牲者が積み重ねられていく前に……。  「その『厭魅絡繰』についてもう少し詳しく教えてくれませんか? 我々は修験者ではないが、警察官として事件を解決しなければならない。市民に害をなすものがあるなら、それが人ならぬ化け物であっても逃げるわけにはいかない」  織田が訴えかけるように言う。  考えをまとめているのだろう。柄沢はまた目を閉じて俯いた。織田も雅も辛抱強く待つ。  しばらくすると「ふむ」と言って柄沢は目を開ける。  「蠱毒、というのを知っているかね?」  「孤独?」と首を傾げる雅。  「たぶん違うことを思っていたな? いくら彼氏いない歴が長いからと言って……」  織田が横目で見てきた。  「お、大きなお世話です」ムッとする雅。だが、深刻な話が続いていた中、むしろ彼の軽口が懐かしく感じられてしまった。いかんいかん、と首を振る。「じゃあ、何なんですか?」
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