その違和感、危険でした

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その違和感、危険でした

 お嬢様と、約半年ぶりの再会は、意外とあっけなかった。  クリスマス前日に、私が用事で出かけるために玄関に行った際に、たまたますれ違ったのだ。  この時はすでに、愛子さんはアメリカへと出発していた。  愛子さんとお嬢様がすれ違ったかどうかはわからないが、私とお嬢様は出会ってすぐに「久しぶり」と声を掛け合うくらいには、仲は悪くなかった。数ヶ月、同じ家に住んでいるというのはそれだけで信頼度は増すのだから。  もちろん、お嬢様の横にはしっかりトムがいた。その姿自体は、私が2人と初めて会ったラブラブ時期となんら変わらないのだが、このツーショットに私は、言語化できない違和感を覚えた。  ただ、1つだけ見てすぐにわかる違いもあったので、そのせいだろうと、すぐに頭を切り替えた。 
(トムが痩せたからかな?)  愛子さんは料理が上手。特にヘルシーなものをよく作る。  そのご飯をいつも一緒に食べているのがトムなのだ。  愛子さんのご飯を食べ続けている内に、トムの容姿も変化していた。  初対面で感じたでっぷりとした熊のような姿から、しゅっとした紳士体型になっていたのだ。  お嬢様はお嬢様で、少し痩せたような印象を受けた。  人は体重が少し減っただけでも、相手にインパクトを与えるものだ。  きっとそのせいだ、と私は勝手に自己完結してその場を終わらせて、用事のために外へ駆け出した。  そうしてクリスマス当日。  この頃はすでに 「彼氏探しなんかより、英語をできる限り身につけて日本に帰るぞ」  モードに突入していた私は、共に過ごす男1人見つけるどころか誰1人誘わず、映画館にレミゼラブルを見に行くという、なんとも自分らしいクリスマスを過ごしていた。  ちなみにクリスマスは、基本お店は全部閉まっているのだが、映画館だけは営業してくれていた。なんという親切。  映画の感動で胸がいっぱいになった私は、脳内で見てきたばかりの映画をひたすら再生しながら、その日の夜は1人でご飯を食べた。  これがちっとも寂しくないのは、生来の引きこもり気質のおかげだったのかもしれない。  さて、そんな自由気ままなクリスマスを過ごした私ではあったが、同じ屋根の下には婚約したカップルがいるのだ。  もちろん、熱い夜を過ごすことになるだろうと、私は腹をくくりながら、音を聞かないであげるためのイヤホンはしっかり用意した。  ところが、その日の天井はとても静かだった。 (あれ?)  と思ったのも束の間。  次の日の朝、上から聞こえてきたのはお嬢様の泣き声と、明らかに何か物を投げている音が聞こえ始めたのだった……。
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