殺害予告と通訳

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殺害予告と通訳

 さてさて。  受信箱に入っていたメールを見てみると、見知らぬ男性の名前が書かれていた。  普通だったら 「ウイルスメール?イタズラメール?」  と疑って、即ゴミ箱行きだっただろう。  けれど、私は迷わず開封した。  やはり予想通り、愛子さんからのメールだった。  内容は残念ながら10年前の情報だったことと、当時あまりの衝撃的な文章に、怖くなってすぐにゴミ箱ポイポイしてしまっていたので、記憶の片隅を漁って見つけた程度のものしかここには書けない。  ただ、その内容でもインパクトは十分なので、箇条書きで紹介したい。 ・愛子さんの婚約者は、愛子さんとのアメリカ旅行中に愛子さんの異変に気づいた。きっかけは愛子さんが夜のアレを拒んだから ・SNSやメールのパスワードを当てて、愛子さん関連の連絡を全て確認した ・その結果、トムとのラブラブな連絡が見つかった ・その場で罵倒されただけではなく、愛子さんの実家にも婚約者が連絡し、そのまま日本に強制的に戻されていた ・実家ですごしている ・婚約者からは「ビッチ」といった愛子さんを罵倒するようなメールが届き始める ・トムに対する殺害予告とも取れる内容も含まれていた  大体、こんなところだ。  私は比較的ネット歴は長い方だった。この時は自分でネットを始めてから10年目。  ホームページを作ったこともあるし、初期のmixiメンバーでもあった。  つまり、一通りの経験は積んでいる方だった。  それでも、こんなメールは初めてだった。  活字だけで、殺意がありありとイメージできる攻撃的な文面は。  他人に、それも送られても仕方がないことをした人へのメールだと分かっていても、吐き気がする程の衝撃を受けた。  もしこんなメールが自分宛だったら……。  考えただけで涙が止まらなくなったので、それ以上は考えないようにした。  それから、愛子さんとはいろいろ話した。  私が余計なことを言ったことも知っていて、そこは怒られた。  でも後は、今後どうするか……トロントには戻ってこられそうか?という話をした。  結局この時は、愛子さんの婚約者が次どういう行動をするかが全く読めない状況だったので、せいぜい近況報告くらいしか話すことはできなかった。  ただ、1つだけ印象深い内容があった。  それは、婚約者が書いたこの文章について。 「通訳と一緒に包丁持ってトムのところに行く」  ああ、そうか。  私も1年いたからある意味麻痺していたけれど、昔の私……つまり、英語圏で生活経験がない場合は確かに、通訳に頼ろうとしたかもしれない。  でも、トムという人が第二外国語が英語の人との会話に慣れていることもあるため、現地の幼稚園以下の会話能力しかない私でさえ、辞書さえあればどうにか日常会話は通じる。  だから 「通訳が必要なのはちょっとダサいよね」  という話にはなった。  まあ、そうだ。  自分の声で会話ができないということなのだから。  私は決して流暢に話せるわけではないが、この時は日常生活だけであれば困ることはなくなっていた。  そのことに気づき、自分の1年間の変化に嬉しくなりつつも 「愛子さんがそういうこと言っちゃダメ」  と心の中で突っ込んだ。    まさか「トムとなら英会話ができるよね」と思ったことが、この件の最後の伏線なるなんて……。
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