縁というもの

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縁というもの

 赤い糸が運命の人と繋がっていると、日本では言われている。  私は、それを縁だと思っている。  縁があれば繋がるし、そうじゃなければ切れる。    私は、この家を偶然見つけて、くることができた。これも縁。  あなたたちを知ることもできた。これも縁。  そして1年後、またこの3人がここに集まれたのも縁だと思う。  そうやって、巡り巡って出会うべきタイミングで縁がつながり、離れるべきタイミングで切れるのも縁なのだと思う。  私はきっと、あなたたちの縁を切るためにいるのだと思う。  だから、はっきり言う。  こんな男よりもずっといい人はいる。  思い切って、今ここで切りましょう。  人は別れを繰り返すことで強くなれると聞いたことがある。  私は、経験したこともない。その予定もない。  あなたは、私より経験があるし、今日からもっと強くなれると思う。  私は、そんなあなたの助けになれたのが誇らしい。  私は、あなたを誰よりも尊敬している。  そんなあなただからこそ、もっと上の縁があると信じている。  大体、こんな感じ。  これを、日本人が韓国人に拙い英語で伝え、韓国人がそれを受け止めて返事をするのだ。  私は韓国語を知らないし、向こうも日本語を知らない。  けれど、第2外国語が同じだったからこそ、このようにコミュニケーションをすることができたのはすごいことだと思った。  本当に伝わったかは、正直分からない。  でも、私が一通り話し終わった後で、お嬢様が私の手を取りこう言った。 「こんなクソより、ずっといい男見つけてやる」  あ、伝わったと私は思った。  お嬢様は、綺麗さっぱり忘れるという、決意の微笑みをしていた。  クソと言われた男は、苦笑いしていた。  それから私はそのまま下に戻ったけれど、もう喧嘩の声が聞こえることは、なかった。
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